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アメリカで現在進行中の不動産手数料に関する巨額訴訟

2023年3月現在、アメリカでは現在進行系で不動産仲介手数料に関する大きめの集団訴訟(Sitzer v. National Association of Realtors Case No. 4:19-cv-00332-SRB)があります。

この訴訟の重要な前提は
アメリカではreal estate agentとrealtorの2種類の不動産仲介業者が居る。
・半分以上のreal estate agentはrealtorになる。
・realtorはNARにより商標登録された職業であり、会費を払うことでNARが提供する様々な特典にアクセスすることが出来る。
・様々な特典の一つは各地域の不動産データベースであるMLSへのアクセスであり、realtorではないreal estate agentではアクセスできないことがある。
・売り主のreal estate agentがrealtorである場合、NARの規則により買い主の不動産仲介手数料を売り主が決める。また、買い主は仲介手数料の交渉は出来ない。不動産仲介手数料の相場は売買代金の6%程度で、それを売り主・買い主の不動産仲介業者で分ける。
・これまで何度もNARに対する不動産仲介手数料関連の訴訟があったが、ほぼ全てNARが勝ってきた。
アメリカの不動産仲介手数料総額は10兆円程度/年間。
などでしょうか。

そして、今回の集団訴訟は「買い主の不動産仲介手数料を売り主が決める」ことの是非が問われています。
現段階のこの訴訟のステータスは、「ミズーリ州の連邦裁判所の陪審は18億ドルの評決したが、裁判官はまだ判決を下していない」となります(ロイター記事)。裁判官が判決を下したあとに、NARは第8巡回区控訴裁判所に控訴するようです。

また、陪審の評決を受けて、関連した他の集団訴訟が増えており、司法省の独禁法調査もあるようです(こちらの年表が参考になりますが、非常に複雑です)。
関連した他の集団訴訟に巻き込まれているバフェット氏のバークシャーは「2023年の年次報告書で、10月の評決によりホームサービシズは、弁護士費用やその他の潜在費用を除き、最大54億ドルの損失に直面する可能性がある」とのことです。こちらの集団訴訟の現在のステータスは「仲裁合意があったのでそもそも米国裁判所の管轄ではない」との控訴が米国連邦最高裁判所にされているようです(ロイター記事)。

これらの一連の訴訟の行方は不明ですが、一部の不動産仲介業者は和解案に応じたり不動産ポータルのredfinがNARから脱退するなど既成事実が積み重なっているなか、アメリカの住宅市場が大きく変わる可能性が高いように思います。
そもそも、今回の巨額訴訟が、これまでのNARに対する訴訟とは違い進展しているのは、不動産業者がしている「マーケティング」「契約交渉」の価値がわかりにくくなっている点があるように思います(こちらの記事が良記事でした)。
特に、前者はwebポータルの発達だけでなく、SNSやYouTubeの発達で場合によっては売り主が自ら物件をアピールしてすでに潜在的な買い主を客付け出来ているときがあります。
買い主からしても不動産ポータルで見つけた物件を案内してもらっただけなのに不動産仲介手数料を強制されるのは違和感があるでしょう。同じような理由で、賃貸市場でもニューヨークでは借主側の仲介手数料が禁止になるようです。
「契約交渉」もアメリカでは不動産弁護士が多いので、どこまで不動産仲介業者が付加価値を生み出せるのかは、少し曖昧に見えます。

「両手仲介」の国・日本では「片手仲介」の国・アメリカから学ぶべきだ、みたいな記事をたまに見かけますが、「片手仲介」の国・アメリカからすると日本のように買い主が仲介手数料を自由に交渉できるようになることは悪質不動産仲介業者の独占を打ち破った歴史的快挙になるのでしょうか。ちなみに、この集団訴訟の原告は3組のようです。

アメリカのこの訴訟は他山の石とはいえ、「マーケティング」の点などはどの国にも共通すると思われ、DIY(Distributed It Yourself)のような考え方がより全世界的に普及する契機になる可能性もあると思います。なお、「買い主の不動産仲介手数料を売り主が決める」ことで買い主は余計なことを考えなくて良く、初回購入者にとっては優しい制度である可能性もあります。この点が崩れると、不動産の本源的価値である次の需要の喚起が停滞してしまうかもしれません。